2009年6月1日月曜日
西方浄土
兵庫県小野市にある極楽山浄土寺、そのお寺の中に浄土堂という阿弥陀如来を安置する国宝のお堂がある。西方浄土を再現したことで有名な国宝のお寺だ。
上の絵は、晴天の夏の夕方、西側の蔀戸を全開して光を取り入れた状態をシミュレートしたもの。約30度の角度の西日がお堂の床に反射し、朱に塗られた化粧小屋組を照らすことで、堂の中央に配置された阿弥陀如来、勢至菩薩、観音菩薩の3体の仏像が赤く輝いている。また床は反射光でハレーションを起こし白くぬけてあたかも仏像が雲の上に浮いているような感覚になる。
仏像のモデリングは大変時間がかかるし、資料も少なく難しいためデフォルメしている。
仏像に詳しい人からクレームがきそうだが、このブログの趣旨は光の演出を考えることのためご容赦願いたい。
この堂は、今から800年前に創建された重源上人の作。重源は真言宗のお坊さんで同時期に奈良に東大寺の再興を行った人である。
浄土堂も東大寺と同じ構造様式の大仏様を採用している、しかしそれだけでなくここでは、周辺の景観を取り込みながら浄土をこの世に再現するという演出を行っている。
宇治の平等院鳳凰堂も東向きに建てられ、鳳凰が羽を広げた様に似た鳳凰堂を池越しに西側に見る配置は浄土を再現したものと言われているが、光の演出をここまで考えた建物はここだけではないだろうか?
下の写真はこのお寺の周辺の航空写真(google map)だが、真西より少し北に振れた角度で浄土堂が建っている。この少し北に振れたことが重要なのだが、西側正面に溜め池が来るように浄土堂が配置されている。お寺の伽藍自体がこの軸で構成されているところをみると、お寺の建立時から考えられた配置のような気がする。
なぜ西側正面に池が来るように配置したのかは、このお堂の演出と大きくかかわっている。
西日を池の表面で反射し、お堂の中に導き入れるように設計されているのだ。そのために晴天の多い夏、真西より北に太陽が沈むことを計算し、少し北に振った軸で池が正面に来る配置が考えられたものと思われる。
東側上空から見た、浄土堂と池の様子を再現してみた。
浄土堂のモデル(外部はかなりはしょっているため、今後、仏像とともにリファインしていく予定)
小野市という場所を選んでこの演出を考えたことも計算のうちであろうか?
奈良や京都の様な大都市でこの周辺景観を取り込むという演出を行っても、800年間そのままであることはなく演出意図は忘れ去られていたことと思う。
このお寺も1980年代に解体修理がおこなわれるまで約400年間は、西側の蔀戸は板戸で覆われ自然光が入ることはなかった。
通常仏像が安置されているお堂というものは、窓がなくうす暗い雰囲気の中に金色の仏像が浮かび上がる絵のほうがイメージしやすい。400年前の人もそんななじみの雰囲気の中で仏像を拝みたかったのだろう。下図は、自然光が入らない状態で、蝋燭の光でシミュレートしたものだ。
背後に闇が存在し、日本人にはなじみの空間である。陰翳礼讃。
しかし西日を入れた絵は圧巻であり、日本のお寺にはまずない光の演出である。
演出意図は忘れられても、800年にわたり周辺環境が変わらなかったことに感謝したい。
というか重源という人の洞察力に敬意を表したい。
浄土宗は、南無阿弥陀仏と唱えれば極楽浄土に行けるという教えで一般大衆に広く信仰されている宗派である。多くの人を信者にするために、西方浄土を目の前に再現して見せるというのはかなり効果のある演出だったのではないだろうか?
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